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スコープの洗浄:血液や粘液が乾燥して凝塊になる前に洗浄除去することが重要です

自動洗浄消毒装置も有用

内視鏡検査は、機器の性能向上とあいまって、消化器病変の診断と治療に欠かせないものとなりました。また、国民の健康に対する関心の高まり、人材の育成、機器の普及により検査数も年々増加しています。

その一方で、内視鏡検査による感染が問題となっており、感染対策の講演会や研究会が繰り返して行われています。検査に携わるスタッフは、内視鏡の洗浄・消毒方法をよく理解し、手順を守って実施することが大切です。

まず、スコープに付着した血液や粘液を洗浄除去することが重要です。感染が起こるには、微生物の種類だけでなく、その量も影響します。そのため、検査終了後は速やかに洗浄することが求められます。

また洗浄の際、消毒薬(グルタラール、フタラール、過酢酸など)を使用すると、スコープの付着物が凝固してしまい逆効果になってしまうので注意しましょう。洗浄やすすぎで使用する水は、無菌水やフィルターで濾過したものである必要はなく、飲用に適するレベルであれば問題はありません。

ベッドサイドにおける洗浄における具体的な洗浄方法は以下の通りです。

ガーゼで速やかに拭き取る

光源につないだ状態で、内視鏡外表面の血液や粘液などをガーゼを用いて十分に拭き取ります。血液や粘液は乾燥すると凝塊になって、洗浄剤や消毒剤が作用しなくなるため、速やかに除去することがポイントです。

吸引・生検チャンネルの洗浄

送気と送水を行い、送気・送水チャンネル内に残った血液や粘液を乾燥前に除去します。200mL以上の酵素系洗剤を吸引します。検査医が検査終了直ぐに行うことが理想です。

送気・送水チャンネルへの送水

送気・送水ボタンをはずして、検査中に逆流した血液や胃・腸液を除去するためのAWアダプターを取り付けます。約30秒間AWチャンネル洗浄アダプターボタンを押して送水を行います。ボタンから指を離して約10秒間、スコープ挿入部先端から水が出なくなるまで送気持します。

続いて、洗浄場における洗浄における具体的な手順は以下の通りです。

漏水の有無をチェック

故障を未然に防ぐため、漏水の有無のチェック(空気加圧式のチェッカー等を使用)は症例ごとに行うことが推奨されています。

内視鏡外表面の手洗い洗浄

中性洗剤や酵素洗剤などをスポンジにつけ、内視鏡の操作部、挿入部、その他の部分を入念に手洗いで洗浄します。防水キャップが必要なものには、防水キャップを装着してから洗浄します。

吸引・生検チャンネルのブラッシング

チャンネル掃除用のブラシを使用して、吸引・生検チャンネルの3箇所(@吸引ボタン取付座から吸引口金まで、A吸引ボタン取付座から鉗子出口まで、B鉗子孔から鉗子出口まで)に対して、2回以上のブラッシングを行います。ブラシの使用の際には、洗浄ブラシの毛が立ってないもの・毛が抜けたものは、十分な洗浄効果が得られないので、使用前後の点検が必要です。吸引・生検チャンネルは汚染の度合いが強い部分ですので、十分なブラッシングが求められます。

スコープの消毒にはグルタラール、フタラール、過酢酸を使用します

ブラッシングを十分に

スコープの消毒には、グルタラール(ステリスコープ、ステリハイド、サイデックスほか)、フタラール(ディスオーバ)、過酢酸(アセサイド、エスサイド)の3タイプの高水準消毒薬を使用します。

消毒時間は、グルタラール、フタラールは10分間、過酢酸は5分間です。薬剤の添付文書とガイドラインである「マルチソサエティ実践ガイド 改定版(2013年)」では浸漬時間が異なっていますが、ガイドラインでは様々な実験データや英米での現状を勘案して決定しています。ガイドラインではフタラールの消毒時間は10分ですが、日本消化器内視鏡技師会では、十分な洗浄を前提に5分の浸漬時間も認めています。

近年は、チャンネルの洗浄から消毒、すすぎ、乾燥までの工程を自動的に行う「自動洗浄消毒装置」を導入する病院が増えています。作業時間の短縮化、作業レベルの均一化、薬液の曝露の軽減などのメリットがあります。

ただし、自動洗浄消毒装置を導入した場合でも、スコープは検査直後に用手洗浄をしておく必要があります。特にチャンネル内のブラッシングが不十分であると確実な消毒効果を得ることはできません。また、メーカーによる定期的なメンテナンスや、消毒薬の添付文書を参考に時期を決めて定期的に消毒薬を交換することが必要です。

高水準消毒薬 使用期限 特徴
グルタラール
(グータルハイド、クリンハイド、グルトハイド、サイデックス、ステリコール、ステリゾール、ステリハイド、ステリスコープ、ソレゾール、デントハイド、ワシュライト)
2〜2.25%製品:7〜10日間
3%製品:21〜28日間
3.5%製品:28日間の繰り返し使用が可能。
緩衝化剤を入れアルカリ性にし活性化してから使用する。金属、ゴム、プラスチックに対して腐食性がない。グルタラールの蒸気による結膜炎、鼻炎、喘息、液体の付着による皮膚炎が報告されている。以下の2つの高水準消毒薬と比べて1本の価格が安い。
フタラール
(ディスオーパ)
0.55%で、14日の繰り返し使用が可能。 短時間で高レベル消毒が可能。
有機物に反応して着色する。アナフィラキシーの報告があり、膀胱鏡や白内障施術器具には使用しない。
過酢酸
(アセサイド、エスサイド)
0.3%で、約1週間繰り返し使用が可能。 銅、真鍮、純鉄、亜鉛メッキ鉄板などを腐食しやすい。刺激臭があり、蒸気は目・呼吸器、原液は皮膚を刺激する。外気温の影響を受けやすく、夏と冬では劣化速度が大きく異なる。

グルタラール、フタラール、過酢酸はすすぎ水が混入したり、時間が経つにつれて分解されるなどして希釈されるため、適宜、デジタル濃度測定器やテストストリップで有効濃度を測定することが必要です。

高水準消毒薬の蒸気は粘膜を刺激して、鼻炎、ぜんそく、結膜炎、皮膚に付着すると、皮膚炎や熱傷を起こすリスクがあるので、スコープを消毒する際にはマスク、ゴーグル、エプロン、手袋を着用し、しっかり換気を行うようにしましょう。

人の手によって行われる部分が多い内視鏡スコープの洗浄・消毒は、減菌業務のような明確な指標がないため、何人もの検査を行う現場でうっかりミスが重なることで、消毒が十分に行われていない内視鏡が使用されるリスクがあります。実際、医療事故等の情報を収集し分析する日本医療機能評価機構では、内視鏡室、検査室、救急外来などにおける「内視鏡の洗浄・消毒に関した事例」を列挙しており、その内容は@未消毒の内視鏡と消毒済みの内視鏡の取り違え、A洗浄・消毒法の誤り、B洗浄機の不具合に分類されています。

これらのミスを防ぐためには、まず未消毒の内視鏡と消毒済みの内視鏡が一目でわかるように明確に区分する必要があります。「マルチソサエティ実践ガイド 改定版」にもそのように明記されています(推奨度T)。長時間使用しない内視鏡は、消毒した月日を明記し、ビニール袋で保管します。また、いつ誰が内視鏡の洗浄・消毒を行ったかについていの記録を残す必要があります。こちらも「マルチソサエティ実践ガイド 改定版」で明記されています(推奨度U)。

 
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