消化器領域で症例を積みたい先生へ

患者間の直接感染だけでなく、患者からスタッフへの感染対策も不可欠です

MRSA

新型インフルエンザの世界的な流行、抗生剤耐性菌の相次ぐ出現など、新たな感染症に対する対策の必要性は、医療関係者のみならず、日常生活の中でも大きな話題になっています。また、院内感染のニュースも後を絶たず、どこの病院でも起こりうる危険性をはらんでいます。

内視鏡検査室においても、緑膿菌、サルモネラ菌、ピロリ菌、肝炎などの感染例が報告されています。消化管内視鏡における感染経路としては、第一に「血液を介する感染」が挙げられます。生検や処置を施行するため、内視鏡の外表面や管路に血液が付着します。

そのため、内視鏡や処置具の消毒が十分でないと、次の患者に血液を介して感染を起こす危険性があります。ウイルス性疾患、特にB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、エイズウイルス(HIV)などが感染する恐れがあります。

次の感染経路としては、「血液以外の汚染」が挙げられます。すなわち、患者の唾液、消化器内容物、組織の付着などによる感染です。また、洗い場や自動洗浄機が感染経路になることも考えられます。緑膿菌、サルモネラ菌、ヘリコバクター・ピロリ(HP)への感染が報告されています。保管の不備や検査室の周辺環境(ベッド、シーツ、術者の手袋など)の汚染から感染症が発生することも指摘されています。

日本における内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドラインとしては、日本環境感染学会日本消化器内視鏡学会日本消化器内視鏡技師会の合同によって基準が作成された「マルチソサエティ実践ガイド」があります。このガイドラインは、それまで複数の団体から提唱されていた様々なガイドラインをこれら3つの団体がまとめた「マルチソサエティガイド(2008年)」の改訂版で、高水準消毒薬の使用を前提に書かれており、それぞれの項目に推奨度が設けられています。

検査に携わる医師や介助者の注意点として、ガイドラインで述べられている内容を簡潔にまとめると以下のようになります。

検査前の注意点

手の消毒はあらゆる感染対策の基本です。具体的には患者に接する前、血液・体液・排泄物などに接触した後などに手洗いや手指消毒を行います。また、検査ベッドのディスポーサブルカバーは検査ごとに交換します。「未使用」と「使用済み」を間違うことのないように明確に区別し、送水用のボトル・接続チューブは、毎日洗浄、乾燥、滅菌を行います。

検査中の注意点

個人防護具(PPE)を着用します。個人防護具は、@医療従事者を患者の血液、体液などの曝露から守る、A医療従事者を介してほかの患者や環境への微生物の伝播を防ぐことを目的にしてます。

具体的には手袋、ガウン、マスク・ゴーグル・フェイスシールドなどを指し、使いやすいようにホルダーを設置して検査室内の壁に準備します。また、汚染された手袋や処置具の不要な接触は避けなければなりません。

検査後の注意点

使用後のスコープは速やかに洗浄室で洗浄・消毒を行い、消毒終了後の内視鏡は、次回の検査まで汚染されないように格納庫に保管します。送水ボトルは毎日洗浄・乾燥させて使用し、週に1度は滅菌することが望ましいとされています。送水ボトルでは、水系に由来する細菌(緑膿菌)が増殖し、感染源となる可能性が報告されています。

また、検査後の未消毒の内視鏡は誤使用のないよう、検査に用いられる内視鏡と区別できるように内視鏡ハンガーに工夫するなどして、施設内で周知しておく必要があります。

感染対策は、一部所のみではその効果を十分に発揮することはできません。病院全体の感染対策チームと協力し、情報交換を行いながら、対策を徹底していく必要があります。正しい手指衛生の指導に始まり、針刺しや特殊感染症への対応、ワクチン接種、職員研修、感染対策チームによる内視鏡室の定期的な視察など、その項目は少なくありません。

最も大切なことは、スタッフ1人1人の自覚と行動です。それぞれの施設にあった感染対策をもう一度考え、感染対策を1つ1つ履行していくことこそ、患者を内視鏡による感染から守り、スタッフの安全とともに、安心して内視鏡検査・治療を受けられる環境を整えることに繋がります。

 
Copyright (C) 2023 内視鏡検査ガイド All Rights Reserved.