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偶発症の頻度が最も高いのはバルーン小腸内視鏡検査で、死亡例も報告されています

患者のバイタルサインは常に確認

2003〜2007年に日本消化器内視鏡学会が行った「偶発症に関する全国アンケート調査」によると、回答のあった全国518施設における内視鏡検査・治療中に起因する偶発症は0.050%に認められ、死亡例が113例報告されています。

検査法別で最も偶発症の発生率が高いのは、小腸内視鏡検査に用いられるバルーン小腸内視鏡検査となっており、死亡例も見られます。また、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)用の側視型十二指腸スコープを用いた検査でも、偶発症の頻度が高くなっています。

一方、診断的なERCPに伴う偶発症は0.408%に発生しており、死亡例も8例報告されています。乳頭括約筋切開術などの治療的ERCPにおいても偶発症の発生率は0.508%であり、21例の死亡例が報告されています。

機種 検査件数 偶発症数 発生率(%)
上部消化管スコープ(経口) 8,562,424 2,108 0.025
上部消化管スコープ(経鼻) 141,708 24 0.017
側視型十二指腸スコープ 276,575 1,429 0.517
バルーン小腸スコープ 10,666 85 0.797
大腸スコープ 3,311,104 2,567 0.078
超音波スコープ 141,339 27 0.019
カプセル内視鏡 2,661 16 0.601

上・下部内視鏡検査と治療に伴う偶発症では、出血と穿孔が高率となっています。また、上部消化管スコープおよび大腸スコープに関連した死亡例はそれぞれ14例、21例が報告されています。

手技 検査件数 偶発症数 発生率(%)
観察(生検を含む) 10,058,902 744 0.007
腫瘍治療(EMR、ESD、他) 685,594 3,999 0.583
ERCP関連 268,922 1,369 0.509
止血治療 160,139 109 0.068
静脈瘤治療 83,161 164 0.197
胃瘻造設 63,929 145 0.227
消化管狭窄解除 48,176 87 0.181
EUS下穿刺診断・治療 5,542 16 0.289

内視鏡的ポリペクトミーやEMR、ESDなどの腫瘍切除に関連した偶発症は0.583%に発生しています。そのなかでも、ESDは偶発症の発生率が3.131%と極めて高く、臓器別では食道、大腸、胃の順に高率となっています。

術式 検査件数 偶発症数
(%)
食道
(%)

(%)
大腸
(%)
ポリペクトミー 323,142 876
(0.271)
0 13
(0.111)
851
(0.274)
EMR 260,875 1,473
(0.565)
40
(1,272)
249
(0.821)
1,160
(0.512)
ESD 46,598 1,459
(3,131)
96
(4.426)
1,171
(2.961)
179
(3.774)

検査・治療中、およびその直後ではさまざまな偶発症が起こりえます。したがって、患者の状態やバイタルサインを常に確認し、異変が起こった際には迅速に対応しなくてはなりません。検査室内の状況やバイタルサインが集中的に管理できるシステムが理想的といえます。

出血

通常の検査において、強引なスコープ操作に伴う裂創形成、あるいは生検組織採取により出血が惹起されることがあります。また、上部内視鏡検査中の嘔吐反射のため、食道と胃の接合部粘膜に裂創が形成され、出血することもあります。

大部分は自然に止血しますが、持続的な出血の場合にはトロンビンなどの止血薬散布、内視鏡的クリッピング、局注治療などの処置が必要となります。検査前に出血経口の有無や抗凝固薬の使用状況などを確認し、出血に関する十分なインフォームド・コンセントを得ておくことが大切です。

また、経鼻内視鏡検査では鼻出血が起こりえます。大部分は鼻梁の圧迫だけで止血しますが、出血が持続する場合はカテコラミンを染みこませた綿球で圧迫止血するなどの処置を行い、耳鼻科医にも相談します。

治療に起因する出血に対しては、クリップによる圧迫止血法、止血鉗子による凝固法、エタノールや硬化薬などの局注法で対処することになります。これらの内視鏡処置で止血が困難な場合には、血管造影検査したの止血処置や外科手術が選択されます。

消化管穿孔

診断を目的とした検査での消化管穿孔は、スコープによる粘膜の損傷が原因で起こることが多いとされています。ただし、食道の穿孔は検査中の激しい嘔吐反射や咳嗽反射が原因となることもあります。また、バルーン小腸検査ではスコープとオーバーチューブで小腸を短縮する際、また超音波ガイド下の穿刺細胞診検査でも消化管に穿孔をきたすことがあります。

通常、穿孔が起こると強い腹痛や腹部膨満、あるいは皮下気腫が出現します。穿孔が疑われる場合には、腸管内の空気と内容物をを可能な限り吸引後、早急にスコープを抜去し、経過を観察します。大きな穿孔では緊急手術の適応となります。外科医と連携しながら、慎重に症状やバイタルサインをチェックします。

治療による消化管穿孔は、治療中に発生する場合と治療後一定の時間を経てから発生するものがあります。腫瘍の内視鏡適切除、あるいは出血性病変に対する止血処置などで発生します。治療中に発生したものに対しては、クリップなどで穿孔部位を縫縮することで対応できる場合があります。その後は絶食および抗菌薬投与とし、症状やバイタルサインを慎重に確認しながら経過観察します。

一方、一定時間後に起こる穿孔は、内視鏡治療器具が発する熱のため、脆弱となった組織が脱落することが原因と考えられます。治療から1日以上たって穿孔が起こった事例もあります。そのため、内視鏡治療自体は問題なく終了しても、数日間は注意深い観察が必要であり、患者にもその旨を説明しておきます。

急性膵炎

ERCPは膵・胆道系疾患の診断に有用ですが、侵襲性の高い検査法であり、偶発症として急性膵炎が起こります。また、傾向的に挿入するバルーン小腸内視鏡検査を受けた患者でも急性膵炎を発症することがあります。重症膵炎に進展することがあり、死亡例の報告もあるため、早期診断と迅速な対応が重要です。

検査・治療後の急性膵炎では血中アミラーゼやリパーゼなどの膵酵素を検査後に測定し、腹痛や嘔気などの症状の有無を確認します。

カプセル滞留

バルーン小腸内視鏡に比べて患者に対する侵襲が少ないカプセル内視鏡検査は、実施される機会が年々増えつつあります。しかし、腸管の狭窄部をカプセルが通過できずに、長期間にわたって小腸内に滞留することがあります。

カプセル自体が生体に影響を及ぼすことは少ないと考えられていますが、内部のバッテリーは人体にとって有害物質ですので、滞留した際には内視鏡的もしくは外科的に摘出する必要があります。検査後は便の観察を指示し、カプセルの輩出が確認できない場合には、腹部単純X線写真で滞留の有無を確認します。

 
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