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リドカイン(キシロカイン)のアレルギー反応や中毒症、鎮静薬による呼吸抑制などへの対策

検査5000件あたり2〜3件発生

近年の著しい機器の進歩に比例して、消化管内視鏡の検査件数は右肩上がりで増加しています。胃がん検診や患者への苦痛が少ない経鼻内視鏡検査の普及により、今後もこの傾向は続くと予測されます。

その一方で、患者の高齢化によってがんの発見数が増加することに加え、従来は外科治療の適応であった消化管腫瘍に対する内視鏡治療も可能となったため、検査・治療における偶発症が増加しているのもまた事実です。

日本消化器内視鏡学会が行った「消化管内視鏡検査の偶発症に関する全国アンケート調査」によれば、回答のあった全国518施設における偶発症の発生率は0.057%と算出されています。すなわち、年間5,000件の検査を行う施設では、年に2ないし3件の偶発症に遭遇することになります。

上記の全国調査の結果(5年間)では、前処置に関連する偶発症の発生率は0.0037%で、11件の死亡例が報告されています。注意が必要な前処置における偶発症としては。鎮静薬投与による呼吸抑制、腸管洗浄液内服による腸閉塞・腸管穿孔、局所麻酔薬によるアレルギー反応や中毒症などが挙げられます。死亡例は表のように腸管洗浄液によるものが最多となっています。ただし、前処置に伴う偶発症の発生率は10年前の調査よりも減少しています。

リドカイン(キシロカイン)に対するアレルギー反応・中毒症

上部消化管内視鏡検査では、経口法、経鼻法いずれの場合でも局所麻酔薬で前処置を行います。麻酔薬として、リドカイン塩酸塩(キシロカイン)を用いるのが一般的ですが、本剤はアレルギー反応や中毒症によるショック、発熱、痙攣などの副作用を起こすことがあります。これらの発生においては、リドカイン塩酸塩の投与量、気道や消化管からの吸収速度、薬剤に対する患者の感受性の違いなどが関与しています。

予防のためには、濃度の低い局所麻酔薬を使用する、あるいは局所麻酔薬を嚥下させないで吐き出させることが必要です。また、リドカイン塩酸塩は死勝ちろ湯などで使用される頻度が高い薬剤ですので、患者の過去の使用歴を前もって確認しておくことも重要です。

なお、ショック状態になった場合は、迅速な対応の有無が患者の生命予後を大きく左右します。バイタルサイン計測のための血圧計やパルスオキシメータを設置し、昇圧薬やステロイドなど緊急時に使用する薬剤、気管内挿管セット、バッグ・バルブ・マスクなどを救急カートにまとめ、内視鏡室に常備しておくようにします。

鼻出血

スコープが鼻腔粘膜を刺激する経鼻内視鏡検査では、前処置として血管収縮薬や局所麻酔薬の点鼻や鼻腔内散布が必要です。その際、点鼻チューブやスプレーの先端が、鼻腔開口部近くのキーゼルバッハ部と呼ばれる、血管の発達した場所にあたると、鼻出血の原因となることがあります。

局所麻酔薬をネラトンカテーテルや前処置スティックに塗布して鼻腔内に挿入する場合には、無理な挿入で出血をきたします。さらに、これらを鼻腔内深部に入れると、上咽頭の粘膜を損傷して出血することがあります。鼻出血をきたすと、検査を行えないまま耳鼻科受診が必要となる可能性があるので、前処置は注意深く行います。

腸閉塞・腸管穿孔

全大腸内視鏡検査や経肛門的小腸内視鏡検査などでは、前処置として腸管洗浄液を服用します。腸管洗浄液は浸透圧が体液と同等に調整されているため、吸収されやすいという特徴があります。したがって、腸管狭窄を有する患者、高齢の患者、慢性的に便秘の患者は、多量の腸管洗浄液内服により腸閉塞を発症したり、腸管内圧の上昇による腸管穿孔をきたすことがあります。

腸閉塞に至った場合には、まずイレウス管の挿入と全身管理による内科的対処を行います。一方、腸管穿孔では外科治療が第一選択となります。前述のように腸閉塞と腸管穿孔による死亡例が報告されており、いずれも重篤な偶発症といえます。

腸管洗浄液の投与を開始する前に、腸管の狭窄が疑われる病歴がないことを確認し、服用中も排便や腹痛などの状況を確認し、高齢者では時間をかけて服用してもらうなどの工夫が必要です。

鎮静薬による呼吸抑制

検査中の苦痛や不安を軽減する目的で、ジアゼパム、ミダゾラム、ペンタゾシンなどの鎮静薬が広く用いられています。しかし、いずれの薬剤も中枢神経に作用して呼吸抑制をもたらすことがあります。特に、高齢者や呼吸器疾患を有する患者では注意が必要です。

呼吸抑制が見られるときには、聴覚、あるいは感覚刺激を与えて呼吸を促し、それでも効果がない場合にはフルマゼニルなどの拮抗薬を投与して、鎮静を解除することで対応します。

また、呼吸抑制による低酸素血症を避けるために、患者の呼吸状態を確認するだけではなく、パルスオキシメータで酸素飽和度を客観的にモニタします。また、鎮静薬の効果は検査後も持続するので、その間回復室で経過を見ることが必要です。

その他

上記以外の偶発症として、腸管洗浄液による誤嚥性肺炎や消化管運動抑制薬の副作用などが上げられます。前者は死亡例が報告されている重篤なものです。一方、消化管運動抑制薬による副作用として、抗コリン薬による尿閉、眼圧上昇、狭心症、甲状腺クリーゼ、グルカゴンによる高血糖などが挙げられます。これらの薬剤の禁忌を理解し、詳細な問診と過去の内視鏡検査歴の確認を怠ってはなりません。

 
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