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内視鏡の事故(穿孔など)の裁判では、医師の説明義務違反、手技の過誤、術後管理の過誤などが争点となります

内視鏡の事故における医師の責任

内視鏡手術は、他の手術形式に比べて患者への侵襲の程度が低いため、術中の肉体的・精神的な苦痛が少ない、術後の回復が早い、傷痕が残りにくいなどのメリットがある一方で、医師が直接手術部位を確認することができず、視界がスコープを通じてのものに制限された中で操作を行うため、豊富な経験と高度なスキルを要します。

そのため、穿孔に代表される手術中の事故をめぐって医療訴訟に発展するケースも少なくありません。近年では群馬大学医学部附属病院で同一の医師から腹腔鏡手術を受けた患者8人が相次いで死亡したケースが大きく報道されました。

内視鏡手術に関する医療訴訟で主に問題となるのは、@手術を受けるリスクに関する「説明義務違反」、A術式選択の過誤、B手技の過誤、C術後管理の過誤、の4点です。

@の説明義務違反についてですが、患者さんは、複数ある治療法のなかから、どれを選択あるいは拒否するかを自分の意思で決定する「自己決定権」を持っています。内視鏡手術を行う医師は、他の術式の選択肢も含めて、患者yが自己決定できる程度に手術のメリットとデメリット(リスク)を説明する義務があります。

Aの術式選択の過誤は、患者の症状と病巣の部位から判断される手術の必要性と、内視鏡手術に伴うリスクを天秤にかけて、内視鏡手術という選択肢が妥当だったのかが問題となります。

Bの手技の過誤についてですが、穿孔は内視鏡の誤操作などにより、臓器や血管に外傷が生じることが主な原因ですが、内視鏡手術はリスクを内在した術式であるため、必ずしも「穿孔=手技の過誤」となるわけではありません。内視鏡手術は、術中の記録が映像として残されることがあるので、手技の過誤か否かは映像の存在もポイントとなります。

Cの術後管理については、内視鏡で切除したポリープの部位の組織が脆弱して脱落し、術後1日〜数日が経過してから穿孔が生じることも珍しくありません。したがって、医師は、手術当日に日帰りで患者を帰宅させる場合でも、穿孔の可能性を患者に伝え、世様子がおかしい時にはすぐに医療機関を受診するように説明する義務があります。

次に内視鏡検査を見てみましょう。内視鏡検査は、一定の確率で穿孔が起きるものという考え方が一般的ですので、医師の手技の問題とは関係なく避けられないものであると判断される場合、医師の過失が認められることはありません。ただし、医師の手技の過失が否定された場合であっても、内視鏡検査は穿孔のリスクが内在していることを事前に「同意書」で説明していなければ、医師の説明義務違反が問われることになります。

また、大腸内視鏡で大腸に穿孔が生じて医療訴訟になった事例では、胃に比べて大腸の穿孔は発生率が極めて低いことを根拠として、医師の手技の過失を認めた判例もあります(平成16年:神戸地方裁判所)。

 
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